ホテルに到着するまでの間、弥生は一言も弘次と言葉を交わさなかった。
弘次は空港近くのホテルに彼女を案内した。とはいえ「近く」と言っても、車で30分近くかかる場所だった。
彼女の滞在準備を整えると、弘次は言った。
「まずはゆっくり休んで。夜にまた......」
バタン!
その言葉が終わる前に、ホテルのドアが彼の目の前で勢いよく閉じられた。
弘次は一瞬、無言になったまま立ち尽くしたが、続きの言葉を静かに口にした。
「迎えに来るよ」
だが、その言葉に返事はなかった。
「社長......」
隣にいた友作が声をかけた。
どうしてそこまで......
我に返った弘次は、振り向いて指示を出した。
「このフロアをしっかり見張れ。不審な人物は一人たりとも入れるな」
友作は頷いた。
「はい、心配しないでください。でも昨夜から一睡もしていないようですし、少し休んだほうが......」
弘次の目は疲労で赤く充血していた。
20時間以上も眠らずにここまで来たのだ。
今の状況では、部屋に戻っても安眠できるかは分からない。
それでも、せめて目を閉じて体を横たえるほうがいい。
「......うん」
弘次は短く返事をし、そのままその場を後にした。
一方、弥生はドアを閉めた後、室内に入り、リビングテーブルの上に並べられた料理を見た。
子どもたちはそれぞれ小さなケーキを一つずつ食べただけで、他の料理には手をつけなかった。
飛行機の中でずっと食べてアニメを見ていたせいもあり、さすがに疲れが出てきたのだろう。
弥生の予想通り、二人はすぐにソファに倒れ込み、ブランケットを抱えて眠ってしまった。
弥生はそっと二人に毛布をかけ、別の椅子に腰掛けると、スマホを取り出した。
連絡先を消されたからって、誰とも連絡が取れないわけじゃないはず。
彼女は複数の電話番号を覚えていた。
特に瑛介の番号は、連絡先に登録していなかったため、毎回番号表示で覚えていた。
彼女はすぐに番号を打ち込み、瑛介に電話をかけた。
だが、かけた瞬間、電話は自動的に切断された。
諦めきれず、彼女は2度、3度と繰り返したが、結果は同じだった。
今度は番号を変えて、父親、由奈、千恵、そして瑛介の父親の秘書にまで順番にかけてみた。
けれど、どの番号にもつながらない。
これはスマホが壊れて